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住所地特例制度とは、介護施設が多い市町村の保険負担を減らすために作られた制度です。
介護保険における保険者は、住民票のある市町村です。しかし、介護保険施設の集中する市町村へ給付費の負担が偏るため、分散を促すために住所地特例制度が生まれました。
本記事では、住所地特例制度の目的と仕組み、介護施設へ入所する際に住所変更は必要かどうか、住所地特例の対象施設や利用例、入退去時に必要な手続きをご紹介します。
住所地特例制度の目的と仕組み
住所地特例制度とは、元々住んでいた市町村以外にある介護施設へ入所したあとにも、入所前と同じ市町村に保険料を納付できる制度です。
介護保険は原則、住民票がある市町村が保険者、地域住民が被保険者となります。
従来の保険運用を継続すると、介護施設が多い市町村の給付費負担が増え、財政を圧迫してしまうことが問題視されていました。
保険財政の圧迫により市町村の財政状況が悪化すると、市町村による転居拒否などの問題が起こりかねません。
そこで、市町村の財政負担を軽くし、被保険者がスムーズに施設に入れるように配慮した制度が「住居地特例制度」です。
保険者と保険料について
介護保険とは、市町村に住んでいる40歳以上の方を対象とした保険制度です。40歳以上の地域住民が被保険者、保険制度を運営する市町村が保険者となります。
保険制度の財源は保険料で、万が一被保険者が介護を受ける必要が生じた場合に、必要なサービスを提供する目的で運営されています。
なお、保険料は市町村によって基準額が異なるため、全国一律ではありません。また、被保険者の所得に応じて保険料が変わります。
住民票を異動する際は、保険料の基準額などを調べておきましょう。
介護施設に住民票を移す必要はあるのか?
要介護者が介護施設へ入る場合、住民票を介護施設の所在地へ移すことは義務ではありません。
ただし「民法第二十二条」には「生活の本拠を住所とする」と記載があるため、原則異動させる方が良いでしょう。
住民票の異動によって、郵便物の受け取りがスムーズになり、転居先の支援サービスが受けられるなどのメリットがあります。
ただし、短期入所を目的とした施設は住民票を移せない場合があるため、事前に確認しましょう。
そのほか、介護施設に住民票を異動するメリットについて解説します。
住所地特例者になるためには必要
住所地特例は、入所者が入所前に住んでいた市町村が、介護保険給付費負担をおこなう制度です。そのため、住民票の異動がなければ、特例が認められません。
郵便物を介護施設で受け取れる
介護施設に住民票を移すと、郵便物を施設で受け取れます。家族が自宅に届く郵便物を施設へ転送したり、持参する手間が省ける点がメリットです。
また、入所者宛に市町村から保険関係の書類が届いた際に、施設スタッフが手続きを代行できるため便利です。自宅に届いた場合、家族が書類を見落とすリスクがありますが、施設に届けばスタッフが直接代理申請できるため、手続きに遅滞が生じにくくなります。
書類の見落としや手続き漏れがないため、入所者とその家族も安心して暮らせるでしょう。
市町村が提供する高齢者支援サービスを受けられる
住民票を異動させれば、移転先の市町村が提供する高齢者支援サービスを受けられます。
高齢者支援サービスとは市町村によって内容は違うものの、福祉用具の購入補助や交通機関の割引、介護タクシーを使った外出支援など、高齢者が自立した生活を送るために必要な支援です。
支援内容や費用については市町村によって異なるため、調べてから利用しましょう。
住民票を異動させていない場合、施設が所在する地域の支援サービスは利用できません。
介護保険料が安くなる可能性がある
保険料の基準額は市町村によって異なるため、住民票の異動によって保険料が安くなる可能性があります。被保険者の保険料負担が減るため、自宅と介護施設の保険料基準額などを調べて、比較してみると良いでしょう。
ただし、施設所在地の市町村の保険基準額が、移転前の住所の基準額より高い場合もあるため、しっかり調べて計算する必要があります。
住所地特例の対象施設
住所地特例制度は、特例を利用できる施設とできない施設があるため、しっかり把握しておきましょう。
サービス付き高齢者向け住宅は、自治体により特例対象施設と対象外施設があるため、特に注意が必要です。
一部自治体では、住宅地特例の対象施設名を一覧で公開しているため、心配な場合は調べてみることをおすすめします。
対象となる施設
住所地特例の対象となる施設は、以下のとおりです。
介護保険3施設
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護医療病床
いずれも要介護認定を受けた人のための施設です。
特別養護老人ホームは、要介護高齢者の生活施設であり、看取りまでの長期間の入居を想定しています。
そのため、要介護は3〜5までに設定されています。また日常生活に支障をきたすような認知症の場合、要介護1や2の方も条件によっては入所できる場合もあります。
介護老人保健施設は要介護高齢者向けのリハビリの提案、在宅復帰を目指すための施設です。要介護1〜5まで、リハビリが必要と判断されれば入所可能です。
目的は在宅復帰であり、原則3ヶ月入所し、問題なしと判断されれば自宅復帰となります。ただし、リハビリの進み具合によって在宅復帰の可否が判断されるため、1年以上リハビリするケースもあります。
3つ目の介護医療病床は、医療の必要な要介護高齢者の長期療養施設です。療養の目安は3〜6ヶ月となり、長期入院を想定しています。
また、以下の3つの施設においても住所地特例制度が利用可能です。
特定施設
- 有料老人ホーム
- 養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム
特定施設とは「特定施設入居者生活介護」の略称で呼ばれます。特定施設は人員、設備、運営の3要素が基準を満たしていることを行政が認めている施設で、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホームが上げられます。
その他にサービス付き高齢者向け住宅の場合、特定施設入居者生活介護の指定を受けている施設であることや、介護・家事・食事・健康管理のいずれかをサービス提供している施設が対象となります。
生活の自由度にも差があり、老人ホームは外出・外泊の届出が必要であり、規定によっては申請が認められない場合があります。
サービス付き高齢者向け住宅は外出や外泊は自由で、特に制限がない場合が多いです。施設や運営主体により異なりますので、確認は必要です。
対象とならない施設
以下のような施設は、住所地特例の対象とはなりません。
- 住宅型有料老人ホーム
- 障害者施設
- 地域密着型サービス(小規模多機能型居宅介護・認知症対応型共同生活介護など)
万が一対象外の施設へ入所して、特例を利用しようとしても、認められません。入居先の自治体保険料が、以前より高額になってしまう可能性もあるため、特例の利用が可能か確認しておいてください。
住所地特例の対象者
住所地特例の対象は、介護保険の被保険者(下記1または2)かつ住宅地特例の対象施設に入所した方です。
- 65歳以上の方(介護保険 第1号被保険者)
- 40歳以上65歳未満で医療保険に加入している方(介護保険 第2号被保険者)
- 住所地特例の対象施設に入所した方
住所地特例の具体例
住所地特例の具体例を3つ紹介します。
典型的な住所地特例の例
A市で自宅に住んでいた方が、B市の特別養護老人ホームへ入所した場合は、特例を適用可能です。
申請をA市に提出して問題なく受理されれば、B市へ移転したあとも保険者はA市のまま継続します。
介護施設から別の介護施設へ転居する例
A市の住宅型有料老人ホームから、B市の介護付き有料老人ホームへ転居した場合も、住所地特例の対象です。
仮に転居前の施設が住所地特例の対象外であっても、移転するB市の施設が住所地特例の対象施設であれば、住所地特例を利用できます。
他市への転居後に元の市の介護施設へ転居する例
A市の自宅からB市の介護付き有料老人ホームへ入所後、さらにA市の認知症対応型共同生活介護施設へ入所したケースについて紹介します。
A市からB市の施設へ異動した際に、住所地特例の申請を提出していれば、保険者はA市となります。
認知症対応型共同生活介護施設は、住所地特例の対象外ですが、A市に住所があるため保険者は引き続きA市のまま継続可能です。
住所地特例の手続きの流れ
住所地特例の手続きの流れを簡単に説明します。特例を利用する場合は、入所・退去時に手続きが必要です。
手続きの書類は各市町村のホームページまたは窓口で取得できます。
入所時の手続きの流れ
住所地特例を利用して、現在住んでいる市町村以外の施設へ入所する場合は、本人が元の市町村へ「住所地特例適用届」を提出する必要があります。
異動から14日以内に手続きしなければならないため、早めに提出しましょう。
また、施設から市町村に「施設入所連絡票」を送付してもらう必要があります。施設側に特例を利用する旨を伝えて、対応してもらいましょう。
施設所在地の市町村の窓口やホームページで「住所地特例変更・終了届」を取得し、郵送などで提出しましょう。
退去時の手続きの流れ
施設を退去する場合は、保険者となっている元の住所の市町村に「住所地特例変更・終了届」を出してください。
特例利用終了の場合のみでなく、内容に変更があった場合も届出が必要になるため、忘れずに提出しましょう。
また、施設から以前住んでいた市町村に対して「施設退所連絡票」の郵送が必要です。
全ての書類を送付し終わったら、退去の手続きが完了します。
まとめ
住所地特例制度は、介護施設が多い市町村の保険負担を軽減するための制度です。
この制度を利用することで、元の市町村に保険料を納付することが可能となります。特に、介護施設に入所する際には、この制度の利用を検討することが重要です。
住所地特例の対象となる施設や手続きの流れを理解し、適切な手続きを行うことで、介護保険を最大限に活用することができます。
施設入所に関する詳しい情報や相談は、しずなび介護なびにお気軽にお問い合わせください。