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高齢者の引越しには、さまざまなリスクがあります。
高齢の家族がより小さな家への住み替えを検討していたり、足腰の衰えを感じて管理や掃除が楽な平家やマンションへの引越しを検討していて、リスクがないか心配している方もいるでしょう。
しかし迂闊に引越しを決めると、健康・精神的な被害があったり、経済面や法的なリスクを抱える可能性があります。
本記事では高齢者の引越しに潜んでいる危険性について紹介します。
身体的健康リスクとその対策
高齢者の引越しには身体的健康リスクがあるため、引越しを考えている方は対策を検討しましょう。
具体的な健康リスクと対策について解説します。
怪我や健康の悪化の可能性
高齢者の引越しには怪我や健康の悪化リスクがあります。新しい住居に慣れないうちは、高齢者が段差に気づかずに躓いて転び、怪我する可能性があります。
若いうちは転んでも咄嗟に手をつくなどの動作ができるため、大きな怪我にはつながりません。
しかし、高齢になると認知機能の低下により、咄嗟の動作が出にくくなります。そのため頭から転んで重症化するケースも考えられます。
また骨密度の低下により骨が脆くなることで、足腰を骨折して歩行に支障が出るリスクがあるでしょう。
最悪の場合は寝たきりになってしまう可能性があるため、ご家族の方による怪我への対策が必要です。
怪我をしないための対策
引越し後の怪我を防止するためには、物件選びが重要です。今後高齢の家族が長年住むことを考えれば、バリアフリーに対応した物件を選ぶと良いでしょう。
また日当たりがよく明るい物件なら、段差にいち早く気づき、高齢者自ら転倒を避けられます。
室内が暗い場合は「人感センサー」付きの照明を導入すると、人が通る際に自動で点灯するため、転倒防止に有効です。
薬の管理と継続的な健康チェック
高齢になると定期的に通院して検査したり、服用している薬を受け取ったりと病院へ通う機会は多いです。しかし、引越しによってかかりつけの病院が遠くなり、通院が困難になる可能性があります。
引越し先で病院を探すことを手間に感じ、つい通院が疎かになり、服用している薬を飲まなくなり持病が悪化するかもしれません。また定期的な検査を怠ることで、病気に気づかず重篤化するリスクも考えられます。
健康管理への対策
高齢者にとって健康管理は非常に重要なため、引越し先で通える病院を先に見つけておきましょう。かかりつけ医に紹介状を書いてもらえば、病状や治療内容を正確に伝えられるため安心です。
紹介状の発行が困難な場合は、新しく通院先を探してお薬手帳を見せるなどすれば、ある程度症状を伝えられます。
高齢者に新しい病院探しを任せると、億劫になり病院を探さないリスクがあるため、家族がサポートして新しいかかりつけ医を探しましょう。
また病院への通院に付き添ったり、移動を手伝うなどして健康管理を手伝うようにしてください。
精神的健康リスクとその対策
高齢者の引越しには身体的な健康リスクだけでなく、精神的な健康リスクも伴います。具体的に発生する精神的なリスクについて理解し、十分な対策をとりましょう。
移転ストレスシンドロームリスク状態
移転ストレスシンドロームリスク状態とは、既存の環境から新しい環境へ移転した際に生じる混乱状態のことです。
高齢者に起こりやすく、急な入院などで環境が変わると認知症のような症状を発症したり、混乱によって眠れなくなるなどのストレス症状を発症します。
引越しによって友達との会話や買い物、散歩などのルーティンが失われると、高齢者は強いストレスを感じます。本人も知らぬ間に孤独を感じてストレスをためてしまい、抑うつ状態になったり、睡眠障害を発症することがあるため、注意が必要です。
また高齢者の場合は抑うつ状態によるセルフネグレクトへの精神状態の悪化、または睡眠障害による健康被害も想定されます。
移転ストレスへの対策
高齢者の移転ストレスを軽減するために、移転前から新しい環境への訪問を心がけましょう。一緒に新居を訪れて時間を過ごしたり、周囲を散策してください。
移転後は家族が高齢者の家に積極的に連絡や訪問をして、コミュニケーションを絶やさないようにしましょう。
元々高齢者が住んでいた地域の友人に会いに行けるようにサポートしたり、引越し先で新たな友人を作れるようにコミュニティへの参加を促す方法も有効です。
経済的リスクとその対策
年齢に関係なく引越しには多額の費用が発生します。年金や貯蓄で生活している高齢者にとって、大きな打撃となる可能性がある点に注意しましょう。
新居への引越しだけでなく、施設への入所のパターンも想定し、必要な費用について解説します。
自宅から介護施設への移転費用
高齢者が自宅から介護施設へ移る場合はまず、入居金が必要です。さらに継続的に入居するための月額費用、オプション費用が発生します。
金額は入所する施設によって異なり、入居金が数万円の施設もあれば、数千〜数億円かかる有料老人ホームもあります。
入所する施設と利用する介護サービス、要介護度によって費用は異なりますが、月額10万円程度の予算は見ておく必要があります。
介護施設への移転費用の対策
介護施設への移転による経済リスクを抑制するために、介護施設の種類と費用を調べておきましょう。
たとえば特別養護老人ホーム(特養) などの公的な施設は、入居金は無料です。要介護度の条件が設定されているため、誰でも入所できるわけではありませんが、条件に適合している場合は初期費用を抑えられます。
自宅を売却して入居金に充当できますが、物件売却には時間がかかるため、手元の資産で入居できる施設を探しましょう。
また月額利用料も考えて、長期間にわたる利用が可能かどうかも検討してください。
自宅から別の自宅への移転費用
高齢者が新しく家を借りて転居する場合は、物件の初期費用や引越し費用がかかります。また新たに物件を購入する場合は、不動産会社への仲介手数料や各種税金についても考えておかなければなりません。
また年齢を理由に住宅ローンが組めない可能性があるため、慎重に転居を検討しましょう。
別の自宅への移転費用の対策
高齢者が今住んでいる家を売却し、購入費用や引越し費用に充当できます。
築年数が経過している場合は売却価格が下がる傾向にありますが、賃貸の場合は初期費用や引越し料金をカバーできるでしょう。
また新しく住宅を購入する場合でも、引越し先の住宅が今より小さな家である場合や地方へ引っ越す場合は、購入費用をカバーできる可能性があります。
また高齢者向けの住宅ローンの利用も検討してください。たとえば「リ・バース60」を利用すれば、60歳から住宅ローンを組めます。
リ・バース60とは…住宅金融支援機構と提携している金融機関が提供する住宅ローンです。毎月の支払いは利息額のみなど支払いについても配慮されています。
また「リバースモーゲージ」を利用すれば、自宅を担保に生活資金の借り入れが可能です。
リバースモーゲージとは…購入した住宅に住み続けながら生活資金を借り入れし、所有者が死亡した際に担保としていた不動産を処分して、借入金を返済します。
法的・行政的なリスクとその対策
高齢者のご家族はつい、引越しに伴う高齢者への健康被害など、目先のリスクに囚われがちです。しかし高齢者が物件を所有している場合は、死亡後の手続きなども考えておかなければなりません。
ここからは高齢者の引越しを検討している家族の方へ向けて、法的・行政的なリスクと対策を解説します。
不動産資産
高齢者が物件を所有している場合、将来的に家族が相続または売却しなければなりません。
住宅ローンが残っている物件を相続した場合は原則支払いが免除されず、相続人に支払い義務が引き継がれます。
仮に家族の方がローンを返済できない場合は、物件を手放して返済に充当したり、相続自体を放棄したりしなければなりません。
相続放棄は手段のひとつですが、残された財産をすべて手放すこととなるため、慎重に判断しましょう。
また物件を含めた資産の相続トラブルなど、残された家族間で争いが起きるリスクもあります。
不動産資産への対策
高齢者が新しく住宅を購入する場合は、死亡後の返済が不要になる「団体信用生命保険(団信)」に加入しておくと良いでしょう。
団体信用生命保険(団信)とは生命保険の1種で、住宅ローン契約者が死亡した際に住宅ローンの残高が0になる保険です。生命保険会社が住宅ローンの残高を金融機関に対して支払います。
団体信用生命保険(団信)は住宅ローンの借入または、借り換えの時にのみ有効な保険契約です。ローンを組んだ後に加入することはできない場合がほとんどのため、物件を購入する前に対策として検討しておきましょう。
団体信用生命保険(団信)はほかの生命保険と同様、加入条件が定められています。契約者の健康状態によっては加入できないこともあるため、事前に条件を確認しておいてください。
<注意>団信に加入していても、住宅ローンの滞納歴があると保険契約が失効します。
また親子で連帯保証型または連帯債務型のローンを組んでいる場合、親子で住宅ローンをそれぞれ契約し、ひとつの住宅を購入するペアローンの場合も、支払いは免除されません。
また、相続トラブルを防ぐためには、死亡に備えて遺言書の作成をおこないましょう。また生前贈与もトラブル防止に有効な方法です。
公的支援への申請
高齢者が移転する際は、自治体などへのさまざまな申請が必要であるため、忘れないように手続きをしましょう。自宅を移転する場合や、施設へ入所する場合は、住民票の移転に伴い要介護認定の再認定などの手続きが必要です。
公的支援の申請への対策
引越し前に事前に申請が必要なものをリストアップしておきましょう。漏れなく申請できれば、引越し後の申請などもスムーズです。
各種支援の申請に行く際は家族が付き添い、移動・申請書類の作成のサポートをおこないましょう。
また高齢者が長時間の移動に耐えられない場合などは、委任状を受け取って家族が申請を代行できる場合があります。
引越し先の自治体に確認したうえで、必要な申請や手続きを実施しましょう。
まとめ
引越しは高齢者にとって大きなストレスとなり、健康を害する可能性があります。
高齢者が新しい生活環境に適応するのは容易ではなく、引越しによるストレスや疲れが原因で体調を崩すことも。特に、一人暮らしの高齢者は孤独感が増し、心の健康も気になるところです。
引越し後の生活で注意すべきは、新しい環境への適応です。新しい場所での生活リズムを早く作り、地域社会とのつながりを持つことが重要です。
また、新しい住まいでの生活が始まったら、安全確認を怠らないようにしましょう。