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歳を重ねるとともに体の不調が多くなり、病院に通う方は多くいらっしゃるでしょう。
体の不調のことで、病院やネットで調べると“ADL”という言葉を目にしたことはありませんか。
ADLとは何かよくわからない方のために、本記事ではADLとはなにか、ADLの低下原因と予防方法を解説します。
ADLとは
ADLは「Activities of Daily Living」の略称で「日常生活動作」とも呼ばれます。
日常生活動作とは、以下のような日常生活における必要最低限の動作のことです。
- 食事
- 排せつ
- 入浴
- 家事
- コミュニケーション
医療従事者等は、高齢者・障害者が日常生活上の動作をどの程度行えるのかを評価するために、ADLを指標とし介護やリハビリを行うための基準としています。
ADLの種類
ADLには2種類あるため、違いについて解説します。
BADL(基本的日常生活動作)
BADLは、basic ADLの略称であり、日常生活を送る上で最低限必要な動作のことです。
例として、以下の動作があげられます。
- 起居動作
- 移乗
- 移動
- 食事
- 更衣
- 排泄
- 入浴
- 整容
BADLは人間らしい生活をする上で欠かせないものであるため、動作が困難な場合は要介護が必要とみなされます。
IADL(手段的日常生活動作)
IADLはInstrumental ADLの略称で、判断が伴うものや行動が複雑になる動作のことです。
質の高い生活を送るうえで重要であると考えられており、例として以下の動作があげられます。
- 家事
- 買い物などの家事や交通機関の利用
- 電話対応などのコミュニケーション
- スケジュール調整
- 服薬管理
- 金銭管理
- 趣味
ADLの低下の原因
ADLが低下してしまうと、1つの動作に関連して他の動作もできなくなってしまい、日常生活が困難となります。
ADLの低下は病気以外にもさまざまで、主な原因は以下の5種類です。
老化
老化によって、筋力と体力が低下することは自然の摂理です。
筋力・体力の低下に伴って活動量が減るため、また筋力低下を繰り返すという悪循環の結果、ADLを低下させてしまいます。
生活習慣病
生活習慣病の重症化から歩行障害などの症状が現れ動くことが困難になり、ADLの低下となるケースは少なくありません。
重症化により動く機会が失われると、筋力・体力が落ちてしまいADLが低下してしまいます。
神経疾患
脳・脊髄・末梢神経などが病変する神経疾患は、完治が困難な病気です。
めまい・ふるえ・しびれなどにより運動障害を起こすため、ADL維持が難しくなります。
認知症
多くの高齢者が発症する認知症は、脳の働きが悪くなるため日常生活に制限がかかります。
四肢の震えなどのパーキンソン症状による歩行障害や、計画し行動することが困難になる理解力・判断力の障害により、ADLが低下してしまうでしょう。
関節疾患
腰痛やリウマチなどにより関節に痛みを感じてしまうと、立ち上がることや歩くことが億劫になるでしょう。
活動量の減少や痛みから、行動が制限されADLの低下に繋がります。
ADLの低下の対処法
ADLが低下した際には周囲のサポートが必要です。
ADL低下を悪化させないための対処方法を紹介します。
過剰な介護をしない
ADLが低下してしまった方には介護が必要です。
しかし、ADLが低下していても自分で行えることはあるため、必要以上にお世話をし過ぎないようにしましょう。
自分にできることでも代わりにやってしまうと、その人自身の活動の機会を奪ってしまい、ADLを悪化させかねません。
福祉用具の活用
ADL低下により行動が難しくなった場合、無理をさせると怪我をしてしまう可能性があります。
怪我によりさらに行動が制限されることもあるため、杖やスロープなど、症状に併せた福祉用具を活用すると良いでしょう。
自宅のリフォーム
自立した生活ができる住環境を作るために、リフォームをすることも良いでしょう。
手すりを設置したり段差をなくし、負荷のかかる行動を減らすことで、ADLの維持・改善ができます。
要介護認定によっては介護リフォームにあたり補助金や助成金が活用できたり、手すりなどの介護用品をレンタルすることもできます。
介護リフォームの補助金・助成金・減税制度の利用について
介護用品の手すりはレンタルできる?手すりの種類と選び方
ADLを高める方法
ADLが低下してしまうと悪循環に陥り、回復が難しくなります。
自立した生活を取り戻せるよう、ADLを高める方法をご紹介しましょう。
運動で高める
低下した原因にもよりますが、できることなら運動がおすすめです。
ADLが低下すると動く気力がなくなり、筋力と体力が落ちてしまい、悪化してしまいます。
筋力と体力をつけるため、運動を習慣化してADLを高めましょう。
散歩や階段の上り下りだけでも、運動として有効です。
バランスの良い食事で高める
生活習慣病を起こさないために、健康的な食習慣が重要です。
病気や老化で食が細くなりがちですが、体力や健康の維持のために、たんぱく質を中心としたバランスの良い食事をしましょう。
趣味を楽しみ高める
自分の好きな趣味は意欲的に取り組みやすいため、ADLを高めるのに効果的です。
趣味を通じて、他者とのコミュニケーションや外へ出る機会が増やせます。
リハビリテーションで高める
専門職の方による機能訓練を受けることで、無理のない形で身体機能を維持できます。
また、リハビリを通じてトレーナーや施設の利用者とコミュニケーションがとれるため、ADLの向上に有効です。
ADLの評価方法を知る
ADL評価とは身体能力や日常生活レベルを見て「自立度」を測り、項目で評価することです。
リハビリの現場や介護保険制度で重要視されるADL評価は、以下のような目的があります。
- 自立度と介護の必要量を知る
- サポートが必要な日常生活動作を知る
- 治療計画を立案する
- 治療効果の判定
- 病状についての医学的な見通しを予測する
- 他施設・他職種との情報共有
ADLの評価方法は多数ありますが、本記事では日本で広く知られているBIというADLの評価方法について解説します。
BIによる評価方法
BIとは、バーセルインデックス(Barthel Index)の略称で、基本的な日常生活が送れているかを評価するものです。
項目は以下の10項目を、各項目を2〜4段階の尺度で点をつけ、100点満点で評価されます。
バーセルインデックス(Barthel Index) | ||
---|---|---|
項目 | 点数 | 判定基準 |
食事 | 10点 | 自立、手の届くところに食べ物を置けば、トレイあるいはテーブルから1人で摂食可能、 必要なら介助器具をつけることができ、適切な時間内食事が終わる |
5点 | 食べ物を切る等、介助が必要 | |
0点 | 全介助 | |
移乗 | 15点 | 自立、車椅子で安全にベッドに近づき、ブレーキをかけ、フットレストを上げてベッドに移り、 臥位になる。再び起きて車椅子を適切な位置に置いて、腰掛ける動作がすべて自立 |
10点 | どの段階かで、部分介助あるいは監視が必要 | |
5点 | 座ることはできるが、移動は全介助 | |
0点 | 全介助 | |
整容 | 5点 | 自立(洗面、歯磨き、整髪、ひげそり) |
0点 | 全介助 | |
トイレ動作 | 10点 | 自立、衣服の操作、後始末を含む。ポータブル便器を用いているときは、その洗浄までできる |
5点 | 部分介助、体を支えたり、トイレットペーパーを用いることに介助 | |
0点 | 全介助 | |
入浴 | 5点 | 自立(浴槽につかる、シャワーを使う) |
0点 | 全介助 | |
歩行 | 15点 | 自立、45m以上平地歩行可、補装具の使用はかまわないが、車椅子、歩行器は不可 |
10点 | 介助や監視が必要であれば、45m平地歩行可 | |
5点 | 歩行不能の場合、車椅子をうまく操作し、少なくとも45mは移動できる | |
0点 | 全介助 | |
階段昇降 | 10点 | 自立、手すり、杖などの使用はかまわない |
5点 | 介助または監視を要する | |
0点 | 全介助 | |
着替え | 10点 | 自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む |
5点 | 部分介助を要するが、少なくとも半分以上の部分は自分でできる。適切な時間内にできる | |
0点 | 全介助 | |
排便コントロール | 10点 | 失禁なし、浣腸、座薬の取り扱いも可能 |
5点 | 時に失禁あり、浣腸、座薬の取り扱いに介助を要する | |
0点 | 全介助 | |
排尿コントロール | 10点 | 失禁なし |
5点 | 時に失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する場合も含む | |
0点 | 全介助 |
参考学校法人 産業医科大学 医学部 リハビリテーション医学講座 日常生活動作の自己評価 (BI)
自立度の目安は、以下のとおりです。
- 100点満点 自立できている
- 80点以下 ほぼ自立している
- 60点以下 起居動作を中心とした部分な介助が必要
- 40点以下 ほぼすべての項目で介助が必要
- 20点以下 全介助
BIのメリットは採点が簡単で基準がわかりやすく、世界共通の評価方法であることです。
反対にデメリットとして、点数が大まかなため詳細なADL能力が把握しにくく、評価者によって評価基準にバラつきが出てしまうなどが挙げられます。
まとめ
介護やリハビリを行うための基準、ADLの種類・低下した場合の対処法・高める方法などについてご紹介しました。
老化や病気などによって筋力や体力が低下し、ADLが低下してしまうことはありますが、運動や食事、他者とのコミュニケーションによって低下する速度を緩めることはできます。
日常生活ができなくなってしまうことは介護される側もする側にも負担が増えてしまいます。
周囲のサポートや福祉用具の利用、自宅を生活しやすいようリフォームするなどしてADLが低下しないよう生活する工夫をしましょう。